船舶の自律安定化

岩手県のアワビとウニの漁獲高はそれぞれ全国1位,2位ですが, 若年労働者不足もあり被災後の漁業再開率は84.3%と低くなっています. 大船渡市の越喜来漁協におけるアワビ・ウニ漁においても身体的負担の大きさと 漁の難度から新規参入者が単独で漁を行うことが難しく, 若年層の新規参入の妨げとなっています.そこで漁の際の船舶制御を人の代わりに行う自律安定化システムを研究しています. 自律安定化システムとは,漁を行う船舶を海上の任意の位置に留めることを目的としたシステムです.

実験に向けての課題

船舶の自律安定化を行うには以下の課題があります.

  • 海上における船舶位置の定位
  • 外乱(波の影響など)を踏まえた制御

海上における船舶位置の定位

船体を海上の任意の位置に留めるためには,船舶の位置をなるべく正確に求める必要があります. このシステムでは海底画像に対してオプティカルフローを用いて船舶速度を求めて積分することで船舶位置を求めています. 上側の2枚の画像の差分から,左下のオプティカルフローを検出します.オプティカルフローの平均をとることで, 右下の画像のように船体速度が求まります.本研究では,これを積分することで船体位置を求めています.

外乱を踏まえた制御

一般的に,流された船舶をPID制御などで元の位置に戻そうとしても, 海上では波などの外乱があるために,うまく元の位置にたどり着けない問題があります. そこで外乱を踏まえた制御を行う必要があります.船舶にかかる加速度は以下の式で与えられます.

a=a0+at+aw

aは船舶の加速度であり,これはフリーダイナミクス(水面抵抗,浮力,重力など)による加速度a0,動力による加速度at, 外乱による加速度awにより決まります. これら全ての加速度が測定・予測できれば,船体を自在に制御することができます.

船舶の加速度aは計測により求めることができます.本研究では海底画像処理とジャイロセンサを用いています. 動力(スラスタ)による加速度atはスラスタへ与えた指令値とその際のaの対応から求めることができます. しかし,フリーダイナミクスによる加速度a0は船体の形状や速度などにより異なる値をとるため,数式により求めることは困難です. そこで,本システムでは力学系学習木により船体に加速度a0を学習・推定させます. これらと上式より,外乱による加速度awを求めることができます. awをキャンセルするだけの加速度をatに与えることにより, 外乱を打ち消す制御ができます.

実際に実験機を用いて加速度a0を学習・推定すると,以下のように, 実際のフリーダイナミクスによる加速度と一致する結果が得られます.



本研究では,学内の造波水槽を用いて波の影響を打ち消すための実験を進めています.


大型実験機の製作

実際に海で使用できる実験機の開発を行っております. 開発要件として,免許不要で実験に使用できること,自律安定化システムを導入可能な制御機構などが必要となります.


免許不要の条件を満たすように,2.7mの船体に,2馬力の推進機を組み合わせました.また,一般的な漁船と同じく推進機を1つ船尾に搭載しました.
自律安定化システムを導入するには,以下の3つが必要となります


  • 船体水平速度の計測
  • 船体鉛直回転角速度の計測
  • 舵・推力のコンピュータ制御機構

船体水平速度は海底画像を用いたオプティカルフロー,船体鉛直角速度は角速度センサにより計測を行います. 推力の制御はデジタルポテンショメータを使用した回路により,制御線に流す電圧を調整し,推力をコンピュータ制御します.また,舵制御は,推進機に操舵用のモータを取り付け,ギアをかませることで,コンピュータ制御を行います.

現在,開発した実験機を用いて池やプールで動作実験を行っています.